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盛岡地方裁判所 昭和51年(わ)23号 判決 1977年1月27日

本店の所在地

大船渡市大船渡町字地ノ森九六番地の五

法人の名称

株式会社 佐賀組

代表者の資格氏名

代表取締役 佐藤一男

本籍

大船渡市赤崎町字永浜五五番地

住居

同市大船渡町字地ノ森九六番地の五

会社役員

須賀芳郎

昭和二年二月一〇日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功、弁護人佐々木衷、同柴田正治各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社佐賀組を罰金一、五〇〇万円に被告人須賀芳郎を懲役八月に処する。

被告人須賀芳郎に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社佐賀組は、大船渡市大船渡町字地ノ森九六番地に本店を置いて昭和四七年三月二七日に設立された土木建築工事請負業を営む株式会社であり、被告人須賀芳郎は、同会社の代表取締役専務としてその業務全般を統轄処理するものであるが、同会社代表取締役社長佐藤一男と同被告人とは、昭和四二年六月ころから共同で土木建築請負業佐賀組を営んでいたところ、被告人須賀芳郎において右事業に関し、昭和四五年ころから表に出せない経費の支払にあてるために小口工事収入を除外することを企て、右佐賀組業務課長中村秀雄および同会計担当者佐々木登に命じて小口の工事収入を公表帳簿の計上から除外させるようになり、右事業を継承して被告会社を設立させた後も被告人須賀芳郎は、昭和四八年二月ころからは、右被告会社の業務に関し、企業が最悪の事態に直面した場合にも事業の経営を安定して続けるために別口の利益を貯えておくことが必要であると考え、右資金蓄積のため法人税を免れようと企て、前記中村および佐々木に命じて以前と同様に小口工事収入の一部除外をなさしめた他、更に前記中村をして架空の材料費及び外注費などの完成工事原価の計上、或いは架空の減価償却費の計上をし、これによつて得た資金を架空名義ないし無記名の預金にするなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

一、昭和四七年三月二七日から同年一二月二一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は、別紙一の「修正損益計算書」および「修正完成工事原価報告書」並びに別紙二の「増減金額説明書」各記載のとおり六三、九五四、四八五円であつて、これに対する法人税額は別紙三の「脱税額計算書」記載のとおり、二二、七五一、四〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四八年二月二七日、同市同町字地ノ森三七番地の五所在の大船渡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一八、二五五、七〇九円でこれに対する法人税額は五、九七四、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額一六、七七六、九〇〇円の法人税を逋脱し、

二、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は、別紙四の「修正損益計算書」および「修正完成工事原価報告書」並びに別紙五の「増減金額説明書」各記載のとおり一一三、五八二、〇七五円であつて、これに対する法人税額は別紙六の「脱税額計算書」記載のとおり四〇、九一七、〇〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四九年二月二二日、前記大船渡税務署において、前記署長に対し、所得金額が二五、九五二、七二七円でこれに対する法人税額は八、七二八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額三二、一八八、二〇〇円の法人税を逋脱し、

三、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額は、別紙七の「修正損益計算書」および「修正完成工事原価報告書」並びに別紙八の「増減金額説明書」各記載のとおり一一六、五八五、一六二円であつて、これに対する法人税額は別紙九の「脱税計算書」記載のとおり四四、九七九、一〇〇円であつたにもかかわらず、昭和五〇年二月二八日、前記大船渡税務署において、前記署長に対し、所得金額が四九、一八四、八八四円でこれに対する法人税額は一八、〇六二、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二六、九一六、四〇〇円の法人税を逋脱したものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき、

一、被告会社代表者佐藤一男、被告人須賀芳郎の当公判延における各供述

一、被告人須賀芳郎の収税官吏に対する質問てん末書一〇通

一、被告人須賀芳郎の検察官に対する供述調書三通

一、被告人須賀芳郎作成の収税官吏宛上申書六通

一、佐藤一男の収税官吏に対する質問てん末書三通

一、佐藤一男の検察官に対する供述調書

一、証人中村秀雄の当公判延における供述

一、中村秀雄の収税官吏に対する質問てん末書一一通

一、中村秀雄の検察官に対する供述調書四通

一、中村秀雄作成の収税官吏宛上申書三通

一、佐々木登の収税官吏に対する質問てん末書七通

一、佐々木登の検察官に対する供述調書

一、佐々木登作成の収税官吏宛上申書

一、東川マキ子、佐藤孝子、菅原弘志、森下正和、宮沢信平、森光雄、菊池由見、吉野武喜、吉成貫、西村丑太郎、菊池康文、斎藤公伸の検察官に対する各供述調書

一、森下正和、宮沢信平、森光雄、菊池由見、菊池武男、吉成貫、西村丑太郎、台勘三郎、村上修太郎、阿部京子、野本登、楢原豊彦、今野東民、三浦豊松、八重樫盛彦、菊池康文、沢藤千三の収税官吏に対する各質問てん末書

一、松川浩、橋爪幸平、宮沢信平、竹内良子、菊池由見、吉野武喜、出羽一、菅原宏太郎、東喬、村上延雄、鈴木富士弥、千葉敏彦、坂川蔵人、及川和也、亘理皎一、水野敏夫、黒沢喜作、高橋吉五郎(二通)、巴朔男、高橋ケイ子、海山松平、熊谷哲、菊池康文、佐藤隆三(二通)、菅原敏夫、沢藤千三、菅野美智子、伊藤敬伺各作成の各収税官吏宛上申書

一、藤野泰佑作成の供述書

一、検察事務官作成の昭和五一年二月一〇日付報告書

一、収税官吏作成の銀行調査書類

一、向井勇治作成の証明書

一、菊池康文作成の証明書

一、佐藤隆三作成の証明書

一、高桑星作成の証明書

一、収税官吏作成の「減価償却費等の計算書」、「現場共通費の原価配分調査書」、「簿外預金、受取利息調査書」、「簿外損益計算書」、「簿外完成工事原価報告書」、「簿外貸借対照表」と題する各書面

一、検察官作成の「現場共通費の原価配分調査書その2」、「交際費限度額計算書」、「貸倒引当金の損金算入に関する計算書(昭和四七事業年度)」、「同(昭和四九事業年度)」、「未納事業税額計算書(昭和四八年度)」、「同(昭和四九年度)」、「脱税額計算書(昭和四七年分)」、「同(昭和四八年分)」、「同(昭和四九年分)」と題する各書面

一、検察官作成の電話聴取書

一、検察官作成の昭和五二年一月一三日付報告書

一、収税官吏作成の法人税修正申告書謄本三通

押収してある総勘定元帳八綴(昭和五一年押第三八号の一、八、九、一七、一八、二六、二七、三五)、金銭出納帳綴五綴(同号の二、一〇、一九、二八、三六)、銀行勘定帳綴五綴(同号の三、一一、二〇、二九、三七)、仕入帳綴六綴(同号の四、一五、二三、三二の一、二、三八)、請負台帳綴四綴(同号の五、一四、二四、三三)、工事原価帳八綴(同号の六、七、一二、一三、二一、二二、三〇、三一)、給料台帳綴三綴(同号の一六、二五、三四)、手形受払帳一冊(同号の三九)、伝票綴一八綴(同号の四〇の一ないし五、四一の一ないし六、四二の一ないし六、六五)、営業報告書綴一綴(同号の四三)、決算報告書綴二綴(同号の四四、四五)、税務署関係書類綴一綴(同号の四六)、決算整理事項一綴(同号の五八)、資産の譲渡ならびに債務の継承に関する契約書一冊(同号の五九)、完成未完成工事経費内訳簿一綴(同号の七二)、法人の確定申告書三綴(同号の一〇一、一〇二、一〇三)、法人の修正申告書(同号の一〇四)

一、押収してある領収証控五綴(同号の四七、五一、九一、九二、九三)、給与等支払明細表綴二綴(同号の四八の一、二)、請求書控七綴(同号の四九、五〇、八二、八七、八八、八九、九〇)、工事契約書二綴(同号の五二、七二)、請求書五枚(同号の五三、一一六、一一七、一一九)、工事設計見積書等綴一綴(同号の五四)、科目内訳表一綴(同号の五五)、土地売買附帯契約書一綴(同号の五六の一)、領収証一二枚(同号の五六の二、一一五の一、二、一一八、一二〇の一、二、三、一三五の一ないし五)、登記済権利証等綴一綴(同号の五七)、振替伝票等綴六綴(同号の六〇、六六、六七、六八、六九、七〇)、メモ等綴七綴(同号の六一、六二、七一、七七、八一、一三八、一三九)、請求書等綴(同号の六三)、金銭出納帳三冊(同号の六四、七五、九六)、借用書及び念書各一枚(同号の七四の一、二)、預金及び定期一覧表一綴(同号の七六)、普通預金通帳六冊(同号の七八、七九、八〇、九七、九八、九九)、借用書一枚(同号の八二)、領収書等綴一綴(同号の八四)、封書一通(同号の八五)、登記簿謄本一綴(同号の八六)、印章七個(同号の九四)、手帳一冊(同号の九五)、得意先元帳綴一綴(同号の一〇〇)、得意先カード綴一綴(同号の一〇五)、新約日報一綴(同号の一〇六)、解約日報一綴(同号の一〇七)、継続日報一綴(同号の一〇八)、預金新規解約日報綴四綴(同号の一〇九、一一〇、一一一、一一二)、普通預金元帳二枚(同号の一一三の一、二)、お中元お歳暮配布先メモ二枚(同号の一一四)、領収書請求書等綴一五綴(同号の一二一、一二二、一二三、一二四、一二五、一二六、一二七、一二八、一二九、一三〇、一三一、一三二、一三三、一三四、一三六)、精算表写(同号の一三七)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件公訴事実の各年度における逋脱額のうち、法人税法一二七条により所轄税務署長から青色申告承認の取消処分を受けたことによるいわゆる取消益分については、被告人らにおいて逋脱の故意が存しなかつたのであるから、これを除外すべき旨主張する。

しかし、青色申告法人が取引の一部除外、簿外預金の蓄積をし、その帳簿書類に取引の一部を隠ぺい又は仮装して記載するなどして所得を過少に申告する行為は、一方において法人税法一五九条の逋脱行為をなしているとともに、同時に同法一二七条一項三号の青色申告取消事由を発生せしめていることであり、「ある事業年度の法人税額について逋脱行為をする以上、当該事業年度の確定申告にあたり右承認を受けたものとしての税法上の特典を亨受する余地はないものであり、しかも逋脱行為の結果として後に青色申告の承認を取り消されるであろうことは行為時において当然認識できることなのである。」(最判昭和四九・九・二〇刑集二八・六・二九一頁)そして、検察官作成の電話聴取書および報告書、被告人須賀芳郎の収税官吏に対する昭和五〇年四月一七日付質問てん末書、同被告人の検察官に対する昭和五一年二月三日付供述調書、同被告人の当公判延における供述によれば、大船渡税務署長の被告会社に対する青色申告承認取消処分は、昭和四七年三月二七日から同年一二月三一日までの事業年度以降を対象年度として、昭和五〇年一二月九日になされ、その翌日ころ被告会社に書面で通知がなされたこと、被告会社では、税務当局による査察により本件が発覚した後右取消処分がなされる以前である昭和五〇年一一月頃、昭和四七、四八、四九各年度にわたる法人税修正申告書を所轄税務署に提出し、右取消益も含めた本件逋脱所得の申告をなしていること、被告人須賀は、昭和四四年ころ大船渡商工会議所青色申告係指導員から青色申告による特典の説明を受け、そのころ個人企業であつた「佐賀組」について青色申告を行うようになり、被告会社を設立した後も同様に青色申告承認を得ていたものであるが、右昭和四四年当時、前記指導員の説明で悪いことをすればその特典は取消になることを承知していたこと、被告人須賀は経理を含め内部的事務を統括する職務にあり、税務上の事務にも一定の経験があること、以上の各事実が認められるのである。そうであれば、青色申告承認取消処分の有無及び対象年度等の処分内容が所轄税務署長の裁量によるものとはいえ、事柄の性質上青色申告納税者にとつて右取消処分は十分予見可能であり、また被告人須賀においても少くとも未必的認識はあつたことは明らかである。同被告人は、当公判延において「やつた時点からこれは当然取り消されるんだなということは、特に、今回の事件を通じまして、認識したわけでございます」と供述するが、右供述も右未必的認識を否定する趣旨のものとは言えず、右認定を左右するものではない。そして、同被告人は右認識を有しながらあえて本件逋脱行為に及んでいるのであつて、本件逋脱の故意に欠けるところはない。よつて、右弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

判示各行為は、被告会社について法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人須賀について法人税法一五九条一項に各該当するところ、被告人須賀についてはその所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示一ないし三の各罪は刑法四五条前段の併合罪なので、被告会社につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告会社を罰金一、五〇〇万円に処することとし、被告人須賀につき同法四七条本文、一〇条により最も重い判示二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、情状により被告人須賀に対し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人らの本件犯行は、被告会社の設立当初から企業経営の安定のために別口の利益を貯えようとして、小口工事収入を除外したり決算操作によつて利益削減を行い、これによつて得た資金を仮名、無記名の預金にするなどの方法で秘匿し、昭和四七事業年度から同四九事業年度まで合計七五、八八一、五〇〇円の法人税を逋脱したもので、国家の租税債権を侵害し、自己の企業のみの利得を考えたものであり、その態様も長期間にわたる意図的犯行で悪質といわなければならず、逋脱額の多大さからもその刑責は重大なものである。

しかし他面、被告人らの本件逋脱の動機は、個人的な私利私欲を得ることを目的としたものではなく、本件発覚後は税務、捜査当局の査察、捜査に協力し、また逋脱にかかる未納税分および延滞税、重加算税等税法上の義務を全て履行し、被害の回復が一応なされていること、被告会社は県内における数少ない港湾土木工事の請負を業とするもので、これまで多くの公共的施設の工事を完成させ、その所得には不労のものはないこと、被告会社、被告人らに対しては、既に本件が新聞等により報道され、社会的な名誉、信用の低下など社会的制裁もなされていること、被告会社および被告人は本件について十分責任を自覚し、経営態勢の改善などを整え同種事犯の再発なきことを期しまた、取引上も謹慎の態度を示していること等、本件審理に顕われた諸般の事情をも考慮し、主文程度の刑を科するのを相当と思料する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

別紙一

(1) 修正損益計算書

自昭和47年3月27日

至昭和47年12月31日

(2) 修正完成工事原価報告書

自昭和47年3月27日

至昭和47年12月31日

別紙二 増減金額説明書

(1) 昭和47事業年度修正損益計算書

(2) 昭和47事業年度修正完成工事原価報告書

別紙三

脱税額計算書

自昭和47年3月27日

至昭和47年12月31日

税額の計算

別紙四

(1) 修正損益計算書

自昭和48年1月1日

至昭和48年12月31日

(2) 修正完成工事原価報告書

自昭和48年1月1日

至昭和48年12月31日

別紙五

増減金額説明書

(1) 昭和48事業年度修正損益計算書

(2) 昭和48事業年度修正完成工事原価報告書

脱税額計算書

自昭和48年1月1日

至昭和48年12月31日

税額の計算

別紙七

(1) 修正損益計算書

自昭和49年1月1日

至昭和49年12月31日

修正完成工事原価報告書

自昭和49年1月1日

至昭和49年12月31日

別紙八

増減金額説明書

(1) 昭和49事業年度修正損益計算書

(2) 昭和49事業年度修正完成工事原価報告書

別紙九

脱税額計算書

自昭和49年1月1日

至昭和49年12月31日

税額の計算

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